東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 木見田研究室
Design for
Circular Economy
近年、新たな経済成長のモデルとしてサーキュラーエコノミー(Circular Economy)が注目を集めています。サーキュラーエコノミーとは、個人や企業の合理性を満たしながら、持続可能なビジネスや社会の在り方を追究する新しい経済システムです。気候変動や資源枯渇などの問題から、従来の大量生産、消費、廃棄による一方通行型の経済(リニアエコノミー)は限界を迎えつつあり、事業立案や商品デザイン考案の段階から「捨てる」までの流れを考えて、資源廃棄を抑える方法が世界中で模索されています。木見田研究室では、サーキュラーエコノミーを実現する製品、サービス、ビジネスモデル、政策を設計し、社会実装するための研究を進めています。
近年、サーキュラーエコノミー(以下、CE)という単語を耳にする機会が多くなりました。しかし、まだまだ日本ではリサイクルに関する話題が多いことに違和感を感じています。CEにおいて重要なのは、資源を捨てずに価値を維持しながら循環させる仕組みです。そのため、既に廃棄されたものの再利用方法ではなく、事業立案や製品設計、デザインの段階から製品のあり方を再考する必要があるのです。
すなわち、「環境負荷の低減」と「企業や個人にとっての経済合理性」をいかにして両立させるか──これがCEを実現させる重要な問いです。現在、世界中でこの問いに対する答えが模索されており、CEを新たな経済成長戦略として確立させる研究と実践が進んでいます。
では、具体的にCEを社会実装する手法にはいかなるものがあるのでしょうか。その代表例として、近年台頭する「サブスクリプション」や「シェアリング」サービスが挙げられるでしょう。
いま、若い世代を中心に消費スタイルが所有から利用へとシフトしています。製品を売り切りで販売するのではなく、製品機能をサービスとして提供する。こうしたビジネスモデルは「PaaS(Product as a Service)」、あるいは「製品のサービス化(Servitization)」とも呼ばれています。
身近な事例を挙げてみましょう。木見田研究室が研究対象とするサービスに、サブスクリプション型のファッションレンタルサービスがあります。1つの衣服を複数人で利用することで、衣服の過剰な生産や廃棄を減らす。とりわけ環境負荷の高さが指摘されるアパレル産業において、サステナビリティの考え方を導入する、まさに理想的なサービスだと言えるでしょう。
しかし、衣服を所有するのに比べて、本当にシェアリングの方が「環境負荷が低い」と言えるのでしょうか?たしかにシェアリングによって衣服1着あたりの着用回数は増えて、着用1回あたりの製造の環境負荷は減ります。しかし同時に、衣服の輸送が必要なため、環境負荷が増える可能性があるとも指摘されています。
所有とシェアリング、本当に環境に良いのは一体どちらなのか……そこで木見田研究室では環境負荷と経済性を評価するシミュレーションを開発しています。このような手法がより確立されれば、製品販売ではなくサブスクリプションモデルを採用することで、より企業の利益が大きく・環境負荷が小さい状態を達成できる製品や事業モデルを導き出せる可能性があります。
衣服や家電など「BtoC」ビジネスだけでなく、企業間取引を指す「BtoB」ビジネスにおいても同様の変化が起こっています。その代表的な事例として挙げられるのが、フランスに本社を置くタイヤメーカー・MICHELIN(ミシュラン)です。同社は環境負荷が低い高燃費なタイヤを開発したものの、環境に良くても値段が高いタイヤは売れないという課題に直面。そこでCEの観点を取り入れて、「タイヤの走行距離に応じて課金するサービス(Pay-Per-Mile)」を提供しています。
こうしたサービスは、環境負荷を抑えるだけでなく、メーカーにも顧客企業にもメリットがあります。まず顧客企業は、タイヤ購入時の初期費用やメンテナンスコストを下げることができます。また、メーカーであるミシュラン社も、摩耗したタイヤの表面を張り替えた再生タイヤを提供することで、本来新品タイヤをつくるために必要だった消費資源(製造コスト)を抑えて売上増加を期待できます。ビジネスモデルの転換によって、より多くの顧客企業が少ない費用で高燃費なタイヤを使える。それだけでなく、メーカー側も売上増加や企業成長が見込める。Win-Winな関係性が成立します。
木見田研究室では、大手企業とも協業しながら「CEを取り巻くさまざまなステークホルダーがいるなかで、お互いに利益のある関係性をいかにつくるか」を模索しています。その過程で、持続可能な社会をデザインするための社会連携講座に参画するなど、大学研究室の枠組みを越えて企業や政府自治体との協業にも積極的に取り組んでいます。
このように、CEは学術的にも、産業としても、今まさに盛り上がりを見せるホットな分野です。欧州を中心として、研究と実践の試行錯誤が世界中で進められています。
そして何より、良い論文を執筆して学術的な成果を出すこと、その研究成果を社会に役立てることを両立させやすい点も魅力です。木見田研究室では、企業との協業機会が豊富にあります。例えば、前述したような環境設計評価の枠組みを用いて、環境にもビジネスにも良いサブスクリプションサービスを設計する。こうした過程で、自分の研究が社会実装されていく面白さを感じられるはずです。
私たちは工学の研究室なので、設計すること、デザインすることを大切にしています。既存のビジネスや既に起こった出来事を分析するだけでなく、目の前にある社会課題を解決するためにデザインする。将来的には、大学院で学んだ知見をもとに起業する、といったキャリアも視野に入るかもしれません。
学術的な成果を実社会に役立てる、意義深い研究をしたいと熱意を持つ学生や企業の方がいらっしゃいましたら、ぜひ気軽にご連絡をください。
東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・特任准教授.博士(工学).2011年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士課程修了.日本学術振興会 特別研究員(PD),東京理科大学工学部第二部・助教,東京都立大学システムデザイン学部・助教,東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・特任講師を経て,2024年より現職.主としてCircular Economy,製造業のサービス化(Servitization,Product as a Service,Product-Service Systems),サービス工学,設計工学の研究に従事.
サステナブル・サービスデザイン/科学技術イノベーション政策研究/データ駆動型事業立案演習/データ駆動型起業演習/サーキュラーエコノミースクール(学外)
木見田康治
Koji KIMITA